一般に胡琴製作者の印象といえば、体が痩せ細った白髪蒼顔の老人が、まるで泣いているかのような悲しい音をゆっくりと鳴らしている姿を思い浮かべるだろう。だが、宜蘭の胡琴製作者・李十三はそんな印象を完全に覆してしまった。
宜蘭で生まれ育った李十三の本名は李春正、「李十三」というのはインターネットで名乗ったハンドルネームだ。以来、彼はネット上で胡琴に対する自らの意見を数多く発表し、「李十三」は胡琴界にその名を轟かすことになる。
宜蘭で生まれ育った李十三の本名は李春正、「李十三」というのはインターネットで名乗ったハンドルネームだ。以来、彼はネット上で胡琴に対する自らの意見を数多く発表し、「李十三」は胡琴界にその名を轟かすことになる。
李十三
1963年生まれ。胡琴製造師。
復興工専電機科卒
<意外な「音」との縁>
朗らかな性格で、声もよく響く李十三は笑って言う。「宜蘭へ胡琴を買いに来る人は、私を見て『お父さんはいますか?』と聞くんです。李十三は6、70歳の老人だと思っていたんでしょう。」今年でまだ43歳の李十三は、胡琴製作においては10年以上の経歴があり、胡琴界では既に重要な地位にいる。日本では李十三の胡琴を専門に輸入している「十三堂」という店まである。実は李十三が胡琴製作の世界に入ったのは、たまたま縁があったことによる。元々は工業専門学校の電機科で学んでいた李十三だが、友人が中国楽器の輸入貿易に従事していたので、兵役終了後に一緒にすることになった。だが、1995年の「野生動物保育実行細則」により蛇皮のある胡琴は輸入制限を受け、友人の事業は挫折してしまう。これがきっかけで李十三は胡琴製造の道に身を投じることになる。
李十三は電機科を卒業したので、楽器の原理はある程度理解していたが、技術面においては恩師である王聖哲との出会いによって著しい進歩を遂げた。王聖哲は成功大学の機械科を卒業後、国外でバイオリン等の製造を学び、長くバイオリン製造に従事している。「あの時は疑問があれば台中へ行って王先生を訪ね、楽器や音響の原理を聞きました。こうして徐々に自分で模索しては、色々と試しました。」と李十三は言う。
<皮選びは音色の鍵>
模索の道とは、勿論正確な物理原理の把握だけではなく、どのようにして胡琴製作に適した材料を探し出すか、という大きな挑戦でもある。幸運にも李十三はインドシナ半島のミャンマーでニシキヘビの皮を見つけ、胡琴製作に最も重要な材料を確保することができた。そしてアフリカの木材とモンゴル馬の尾で製作した弓と結合させたのだ。しかし、李十三が胡琴製作を始めた頃、蛇皮を探す過程は多くの困難に満ちていた。多くの蛇皮を試し、多額の金を費やした。何十万元もつぎ込んで仕入れた蛇皮が、最終的に1、2枚しか使い物にならなかったこともある。「これは胡琴製作で色々と試した過程の中ではよくあること(李十三談)」だが、李十三が自らインドシナ半島に赴いて蛇皮を持ち帰り胡琴を作ったところ、思いもよらない程の良い音が出た。この時、李十三はまさに「大変な喜び」だった。
「この道の前には誰も歩いていません。多くの困難にもぶつかりますが、多くの喜びにも出会います。」李十三曰く、一般に一枚の蛇皮は全体の80%しか判断できず、本当の効果は最後の最後でようやく明らかになる。一つの胡琴が思いもよらない程の良い音になるか、逆に予想外の悪い音になるかは、蛇皮が乾くのを待ってから祈るしかない。「胡琴ができたら人を呼んで、試し弾きをしてもらいます。その時の音色が良ければ、特別な達成感を得られるのです。」李十三が胡琴製作を10年以上続けながら、一度も諦めようと考えなかった理由はここにある。
李十三は胡琴製作者では初めて胡琴楽器の理論を発表し、胡琴における蛇皮輸入を合法化し、高級胡琴のオーダーメイドを引き受けた。豊富な製造経験は学術研究の対象にもなっている。現在、李十三は国立台湾科技大学機械研究所と共同で胡琴製作の意見を発表し続けている。そして、胡琴の音を良くするには、蛇皮に十分な厚みがあり、密度が高く、弾性があるもの、この三要素がまさに胡琴の品質に影響する要となっていることを発見した。
実は、良い胡琴にはクリーンな音、鋭敏な反応、雑音はなく、高音は明るく等、多くの条件がある。だが、胡琴の音色の良し悪しは人それぞれ感じ方が異なり、材質が異なれば音質も異なるが、音色の要となるのはやはり蛇皮にあると李十三は考えている。
胡琴製作で最も重要な蛇皮の選択は、その厚さに注意しなければならない。
一枚約5メートルの蛇皮からは、約7本の胡琴しか作ることができない。
<台湾の音を創造する>
「胡琴の音は悲しくもあり、楽しくもあり、激しくもありますが、これはスタイルの問題です。」と李十三は言う。多くの胡琴製作者の努力の下、現在の胡琴は伝統的な束縛から脱却して現代化の道へ向かい、音を明るくするスタイルへと進んでいる。李十三はかつて中胡を作り、音を改良して独奏での使用を可能にしただけでなく(中胡は一般に独奏では使われない)、馬頭琴の風味を持たせた。それだけに留まらず、李十三は自らの胡琴を四重奏でも発揮させ、バイオリンと同じ地位を得ることを願っている。
「私が作りたいのは甘く、豊かで、重厚で、クリーンで明るく、最も高い音階まで演奏できる音。これが私が追い求める台湾の音です。」李十三の最終的な願いは胡琴を用いて台湾の音、自分のスタイルを創造することである。
台湾ビジネス情報誌「30雑誌」2006年掲載
「李十三」ブランドの胡琴は台湾市場だけでなく、日本、シンガポール、香港、中国、アメリカなど各地へ輸出されている。